エンジニアとしての経験とビジネスマンとしての経験を、一消費者としての目線の上に重ね合わせてみたとき行き着いた考え方が「快と不快」という概念です。明確な言葉として私の中で大きな意味を持つようになったのは、設計部課長時代、あるタイヤ新商品開発プロジェクトに携わったときでした。
 当時の私はプロジェクトリーダーとして、商品企画、設計、材料、生産、営業などさまざまな立場のメンバーと共に商品コンセプトを考える中で、なぜ売れる商品とそうでない商品があるのか、どんな商品ならヒットさせることができるのかを徹底的に議論していました。
 横浜ゴムがこれまで世に送り出してきた商品、競合他社の商品、似たようなスペックで売れたものとそうでないものなど、多くの事例を参考にしながら議論を進めるうち、一つの考え方が浮かびます。「人は“快”を予感させる何かがないと行動に移らないのではないか」というものです。
 よく曲がりよく止まる、ロードノイズが減る、乗り心地が良い、燃費が向上する、見た目が良い、悪路をものともしないなど、その商品を購入したことで、何らかの“快”を感じることができる、もしくは現状感じている“不快”を解消することができるかもしれない。そうした“快の予感”が消費者に購買行動を促すのではないか。であるならば、その“快の予感”を感じさせる商品開発を行っていけば良いのだと。
 さらにこの概念は、商品開発のコンセプトメイクにとどまらず、モノづくり・人間関係その両面において有効です。例えば教育や指導。指導する部下や後輩にとって、快となるような指導ができているか。結果として不快を与えるような対応をしていないか。甘やかすのとは全く違います。私の例にあるように、何年か後になって快であったと感じられることもある。要は相手の立場に立って物事が考えられるかどうかということです。相手への思いやりとも表現できるこの概念は、ビジネスマンとしてのあり方、生き方を考える際に大変重要な視点であると、確信しています。